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広島地方裁判所 昭和59年(行ウ)12号 判決

昭和五九年(行ウ)第一二号事件、

加納基宏

同六一年(行ウ)第六号事件原告

(以下、単に「原告」ともいう。)

加納敏雄

昭和六一年(行ウ)第六号事件原告

加納貞子

(以下、単に「原告」ともいう。)

加納哲雄

加納照生

小林伸枝

右両事件原告ら訴訟代理人弁護士

阿波弘夫

寺垣玲

昭和五九年(行ウ)第一二号事件被告

広島県知事(Y1) 藤田雄山

(以下、単に「被告」ともいう。)

右指定代理人

井手之上博

堂畝正和

石田健

笹井義和

昭和六一年(行ウ)第六号事件被告

広島県収用委員会 (Y2)

(以下、単に「被告」ともいう。)

右代表者会長

江島晴夫

右指定代理人

小田哲夫

森紀之

川崎裕展

倉迫由美子

藤田肇

右被告ら指定代理人

森岡孝介

北脇重男

森脇秀仁

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

ただし、被告広島県知事が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってなした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分並びに被告広島県収用委員会が、昭和六一年二月二五日、起業者大竹市、土地所有者昭和六一年(行ウ)第六号事件原告ら間の広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線及び同事業三・五・一〇九号東栄中市線に関する土地収用事件につきなした裁決は、いずれも違法である。

二  訴訟費用は、昭和五九年(行ウ)第一二号事件と昭和六一年(行ウ)第六号事件を通じ、すべて被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件)

1  主位的請求

被告が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってなした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分は無効であることを確認する。

2  予備的請求

被告が昭和五九年三月二七日付広島県告示第三〇五号をもってなした広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線の都市計画事業の認可処分はこれを取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件)

1  被告が、昭和六一年二月二五日、起業者大竹市、土地所有者原告ら間の広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線及び同事業三・五・一〇九号東栄中市線に関する土地収用事件につきなした裁決はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告ら、同六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

1  原告らの地位等

加納忠雄(以下、「忠雄」という。)は、別紙物件目録一ないし五記載の各土地及び同目録六記載の建物を所有していたが、昭和五一年一二月二六日死亡し、本件両事件原告ら六名がこれらを共同相続した。

2  本件認可処分に至る経緯

(一) 建設大臣は、昭和三二年三月三〇日建設省告示第三九九号をもって、広島県大竹市南栄一丁目の国道二号線を起点とし、旧国鉄大竹駅南側の市街地を経由して、大竹市白石一丁目地内の南北にわたる都市計画道路東栄中市線(以下、「東栄中市線」という。)との連結点を終点とする、東西にわたる幹線道路(全区間約六一〇メートル、以下、「本件都市計画道路」という。)についての都市計画の決定(以下、「原決定」という。)を行った。

(二) そして、建設大臣は、原決定に基づき、昭和四〇年七月一五日建設省告示第一八五四号をもって、旧都市計画法三条の規定により、まず右幹線道路の一部にあたる都市計画道路青木線(以下、「青木線」という。)との交点から都市計画道路中市立戸線(以下、「中市立戸線」という。)との交点までの区間について、都市計画事業及びその執行年度割の決定を行い、施行者である被告広島県知事が同事業に着手し、昭和四七年三月ころ右道路部分が完成した(以下、この部分を「県施行区間」という。)。

(三) その後、被告広島県知事は、昭和四七年七月二八日広島県告示第六五七号をもって、都市計画法(以下、単に「法」というときは同法をいう。)五九条一項の規定により事業認可(以下、「第一次事業認可」という。)を行い、施行者である大竹市が、前記県施行区間に引き続き、その西方への延長部分にあたる中市立戸線との交点から終点である東栄中市線との交点までの区間(以下、「市施行区間」という。)について道路建設事業に着手した。

(四) ところが、右第一次事業認可は、原決定の計画に違背し、これに定められた建設予定区域よりも約一〇メートル北側にずれた区域に道路を建設する内容となっていたため、昭和四九年の暮れころ、これを知った忠雄は、そのままでは右都市計画道路が当時同人所有であった別紙物件目録三ないし五の土地(以下、「本件各土地」という。)に相当部分かかってくることから、大竹市に対し、再三にわたってその誤りを指摘して是正方を申し出たが、大竹市は、同人の申出を無視し、原判決に違背したまま第一次事業認可に従って道路建設を進め、昭和五〇年三月ころに至って、本件各土地の直前でいったん工事を中止した。

(五) しかるに被告広島県知事は、昭和五一年三月三〇日広島県告示第二四三号をもって、法二一条、二〇条の規定に基づき、都市計画上の道路位置を第一次事業認可のそれに合致するように原判決を変更し(以下、「本件変更決定」という。)、その際都市計画の種類及び名称を広島圏都市計画道路事業三・五・一〇七号南栄下白石線(以下、「南栄下白石線」という。)と改めた。

(六) そして、第一次事業認可は既に昭和五〇年三月三一日をもって失効していたことから、大竹市はあらためて被告広島県知事に対し都市計画事業の認可申請をなし、被告広島県知事は、昭和五九年三月二七日付で、本件変更決定を前提として、法五九条一項の規定により、第一次事業認可の際に工事がなされなかった本件各土地を直接事業対象とする南栄下白石線について、施行者を大竹市として都市計画事業の認可処分(以下、「本件認可処分」という。)を行った。

(七) その後、本件認可処分の事業施行期間は昭和六一年三月三一日までとされていたため、被告広島県知事は、同月二四日法六三条一項により、都市計画事業の事業計画の変更として、事業施行期間を昭和六二年三月三一日まで変更する認可を行い、さらにその後も同様に、昭和六二年二月二六日同期間を昭和六三年三月三一日まで変更する認可を、昭和六三年三月二八日同期間を昭和六四年三月三一日まで変更する認可を、平成元年三月二〇日同期間を平成二年三月三一日まで変更する認可を、平成二年三月二六日同期間を平成三年三月三一日まで変更する認可を、平成三年三月一八日同期間を平成四年三月三一日まで変更する認可を、平成四年三月九日同期間を平成五年三月三一日まで変更する認可を、平成五年三月一一日同期間を平成六年三月三一日まで変更する認可をそれぞれ行った。

3  本件変更決定の違法性

(一) 裁量権の濫用

(1) 被告広島県知事は、前記2(二)のとおり自ら施行者となって南栄下白石線の東方部分の道路建設事業を行っているが、その際、既に原決定の計画に違背する区域に道路を建設する失策を犯していたのであって、これに引き続いて事業を行う大竹市としては、当然県施行区間の終点を起点として着工せざるを得なくなり、原決定の計画とは異なることを充分知りながら、被告広島県知事に対し同被告の施行部分に沿った図面を添付して前記第一次事業認可の申請を行うこととし、被告広島県知事はそのまま同申請を認可した。

そして、本件変更決定は、被告広島県知事及び大竹市において何ら正当な理由がないにもかかわらず原決定の計画に反する区域に道路を建設した後、被告広島県知事が、既存の道路建設に都市計画を合致させるために原決定の変更を迫られて行われたものである。この変更決定の際、広島県都市計画課によって作成された変更決定理由書添付図面(原決定の道路と変更決定後の道路とを比較対照した図面)が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供されたが、右図面による原決定の道路は市立大竹中学校(以下、「大竹中学校」という。)の校舎に接するように記載されているが、真実は少なくとも三メートルの余裕はあるのであって、右図面はきわめて不正確であり、本件変更決定を正当化するため故意に歪曲したものである。

また、原決定によれば、原告らは生活基盤である本件各土地を失わずにすんだものを、本件変更決定によるとそれを失うことになるのであって、本件変更決定は、自己所有の土地を失うことなく従前どおりの生活、営業を維持しうると信頼してその生活の設計を組立てていた原告らの信頼を完全に裏切るものである。

(2) 右の経過に照らすと、被告広島県知事の行った本件変更決定は、先になされた原決定の拘束力を全く無視し、行政庁が自らの違背・失策を糊塗し、既成の事実を正当化しようとして専ら不正不純な動機に基づいて恣意的になされたものであるばかりか、原判決を信頼した原告らに対し多大の不利益を課すものであるから、法二一条一項の解釈適用を誤り、裁量権を濫用もしくは逸脱したものである。なお、右の点に関し、被告らは、本件変更決定後の道路区域の方が大竹市の建設した市道を有効に利用できると主張するが、右市道は第一次事業認可の際には既に存在していたのであるから、その時点で原決定を正式に変更すればよく、それは容易になしえたはずである。

(二) 適正手続違反

(1) 被告広島県知事は、実質上違法な事業を初めから適法にすることのみを意図して、本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したのであり、右手続はそれ自体違法である。

(2) また、右変更決定にあたって、都市計画地方審議会で審議がなされてはいるが、右審議会での審議の中には以下の理由で手続的に重大な違法がある。

〈1〉 被告広島県知事は、右審議会に正しい情報をすべて提示して審議を求めてはおらず、また、前記3(一)(1)のとおり虚偽の内容が記載された変更決定書添付図面を送付したものであるから、その手続には重大な違法がある。

〈2〉 右審議会において、審議員の中には忠雄の反対の理由がもっともではないかとの意見もあったが、被告らの主張するような見解が述べられただけで、反対意見の提出の経緯等については何らの議論もなされないままに終わっている。

〈3〉 右審議会において、当時の都市計画課長は、審議会の一人から「計画線の変更によって周囲の所有者に迷惑が掛かるのではないか。」との質問を受けた際、真実は原告らの土地建物を収用等しなければならないのに、そのような問題は存在しないかのような答弁をなし、議論を回避した。したがって、右審議会では、実質的な審議がなされていない。

4  本件認可処分の無効等

したがって、本件変更決定には、法二一条に違反した重大かつ明白な違法が存する。本件認可処分は、これに先行する本件変更決定を前提とするものであるから、その違法性を承継して無効もしくは取り消されるべきものである。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

5  本件裁決

被告広島県収用委員会は、起業者大竹市の裁決申請及び明渡裁決の申立てを受け、昭和六一年二月二五日、同市と土地所有者原告ら間の前記南栄下白石線及び東栄中市線に関する土地収用事件について、要旨次のとおりの裁決(以下、「本件裁決」という。)をなした。

(一) 本件各土地及び別紙物件目録六記載の建物を収用する。

(二) 右に対し、原告らに損失補償をなす。

(三) 権利取得の時期及び明渡の期限は、昭和六一年七月三一日とする。

6  本件裁決の違法性

(一) 違法性の承継

前記4のとおり、本件認可処分は違法であり、無効もしくは取り消されるべきものであるから、これを前提とする本件裁決はその違法性を承継して取消を免れない。

(二) 固有の違法事由

(1) 本件裁決により収用される本件各土地は、いずれも大竹市所有地(水路)と境界を接するものであるが、未だ右官民境界は確定されていないのであるから、収用面積を確定しないままなされた本件裁決は審理不十分の違法がある。

(2) また、本件裁決は、原告加納基宏所有の同目録七記載の建物につき、現所在地から原告らの共有地へ曳家することを前提に曳家移転料を決定しているが、原告加納基宏が共有者である他の原告らの過半数の同意を得られなければ、他に土地を所有しない原告加納基宏は右建物を毀滅せざるを得なくなる。しかるに、本件裁決は、右同意が当然得られることを前提として、原告加納基宏に対し、家屋の移転を義務づけたものである。したがって、本件裁決は、この点において審理不十分の違法がある。

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告ら、同六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

7  結語

よって、昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告らは、本件認可処分につき、主位的に無効であることの確認を、予備的にその取消を求め、昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らは、本件裁決の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件被告、同六一年(行ウ)第六号事件被告)

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3(一)(1)のうち、被告広島県知事が、南栄下白石線の東方部分の道路建設事業を行った際に原決定の計画に違背する区域に道路を建設したこと、大竹市が原決定の計画とは異なることを知りながら、第一次事業認可の申請を行い、被告広島県知事が同申請を認可したこと、変更決定理由書添付図面が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供され、右図面による原決定の道路が大竹中学校の校舎に接するように記載されていること、原決定によれば、原告らは生活基盤である土地を失わないが、本件変更決定によるとそれを失うことになることは認め、その余は否認し、同(一)(2)のうち、大竹市の建設した市道が第一次事業認可の際には既に存在していたことは認め、その余の事実は否認する。

同(二)(1)のうち、被告広島県知事が本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したことは認め、その余は否認する。同(二)(2)のうち、審議会で被告らの主張するような見解が説明されたことは認めるが、その余は否認し、主張は争う。

なお、原告らのいう既成事実とは本件各土地以外の事業施行地を指すのであって、原告らはこれに何ら利害関係を有しないから、原告らが本件認可処分の取消等の理由として主張する本件変更決定の違法は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行政事件訴訟法一〇条一項)に該当するものであって、主張自体失当である。

3  同4の事実は否認する。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件被告)

4  請求原因5の事実は認める。

5  同6(一)の事実は否認する。

同(二)(1)のうち、本件各土地がいずれも大竹市所有地(水路)と境界を接することは認め、その余は否認する。

なお、被告広島県収用委員会は、土地調書に添付された実測平面図に基づいて収用しようとする土地の範囲を特定し、これらの範囲につき昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らの共有と認めたものである。仮に右原告らが主張するように、右原告らの共有地と大竹市の所有地との境界が不明であって右収用しようとする土地の範囲に大竹市の所有地が含まれている可能性があった場合において右原告らからその旨の主張がさなれる等の事由により同被告がその可能性を認めたときには、同被告としては、所有者不明の裁決を行うこととなったにすぎない。その場合においては、右原告らは、供託された補償金につき大竹市と配分を決めればよいのであるが、大竹市が右土地について所有権を主張していない本件では、右原告ら主張の事実をもって本件裁決を取り消す事由とする利益は右原告らに存しない。

同(二)(2)のうち、本件裁決に審理不十分の違法があることは否認し、その余は認める。

三  被告らの主張

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件被告、同六一年(行ウ)第六号事件被告)

1  本件変更決定の違法性に基づく本件認可処分及び本件裁決の違法性の主張に対して

被告広島県知事が、忠雄や原告加納敏雄から原決定と第一次事業認可とが異なっている旨の指摘を受けた昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地部分を残して事実上ほぼ完成した状態にあった。右道路の一部は国道一八六号線となっており、右道路を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていていること、関係地権者の同意を得て右道路を築造していることも考え併せると、これらの既存の権利、利用関係を覆して原決定どおりに道路を作り替えることは公の利益や関係権利者の利益に著しい障害を生じることとなり、到底不可能であった。

一方では、原決定の変更をせずこのまま放置すれば、法五三条の建築制限が、もはや道路が築造されないことが明らかな土地にも適用されることとなり、関係住民に不利益を与えることとなっていたところである。

このように、土地利用の状況が変化していたことに加えて、被告広島県知事の調査の結果からは、本件都市計画道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可にかかる道路では、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道の拡幅により事業を実施することができ、この方が原決定にかかる道路よりも周辺の土地の適正かつ合理的な利用に寄与することができること、また、用地補償費も軽減されること、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可にかかる道路の方がとれており、教育環境上も望ましいことなど、原決定以後に生じた客観的状況の変化に対応して、より高い公益目的を追求する見地からは、原決定にかかる道路よりも第一次事業認可にかかる道路の方が都市計画としてより適切な内容であることが明らかとなり、道路線形は直線が最も望ましいことを考え併せて、県施行区間も含め、都市計画の変更を行うこととし、既に工事が完了した部分までの第一次事業認可と同一位置に、本件変更決定をなしたのである。

また、本件では、原告加納基宏は、本件変更決定の後に、当初は本件事業の事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていたにもかかわらず、後日、わざわざ同法による設計変更届と法五三条による建築許可を受けて本件事業の事業地内に住居を建築したものであって、本件事業の施行による原告らの損失なるものは、原告らが自ら作り出したものである。

なお、被告広島県知事は、変更計画案を策定し、公衆の縦覧に供し、住民及び利害関係人から意見書の提出を求め、意見書の要旨を昭和五一年三月二三日開催の第五五回広島県都市計画地方審議会に提出し、同審議会から変更することが適当であるとの答申を得たうえ、昭和五一年三月二五日付建設省広都計発第三号をもって建設大臣の認可を得、昭和五一年三月三〇日広島県告示第二四三号をもって右都市計画の変更を行ったものであって、適正な手続が遵守されている本件では、裁量権の濫用が認められる余地はない。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件被告)

2  本件裁決固有の違法事由に対して

(一) 本件裁決にかかる土地調書は、起業者大竹市が昭和六〇年二月二七日立入調査を行ったうえで作成したものであるが、右調書の作成においては、起業者が土地収用法三六条二項の規定による立会及び署名押印を土地所有者である昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らに依頼したものの、右原告らは立会及び署名押印を拒んだので、起業者は同法三六条四項の規定により大竹市総務課の職員に立会を求め、署名押印させた。したがって、同法三六条ないし三八条の規定により、右原告らは、右調書の記載事項について、それが真実に反することを立証しない限りは異議を述べることはできないのである。そればかりか、右原告らは、本件裁決手続の間、本件裁決にかかる土地の面積の不確定について何らの意見も述べていないのであるから、被告広島県収用委員会が右の点を考慮せず、右土地調書の記載に基づいて、裁決したのは当然であり、本件裁決は審理不十分の違法はない。

(二) 原告加納基宏所有の同目録七記載の建物の建築計画概要書等によれば、同原告は昭和六一年(行ウ)第六号事件原告らの共有地を右建物の敷地として使用することにしていたと認められるのであって、そうだとすれば、本件裁決によって右共有地の一部の上に曳家されるとしても、それは建物の敷地として原告加納基宏が使用することを他の原告らが予め認めていた土地の範囲であるから、何ら不都合はなく、本件裁決は、この点において審理不十分の違法はない。

四  被告らの主張に対する認否

(昭和五九年(行ウ)第一二号事件原告ら、同六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

1  被告らの主張1のうち、被告広島県知事が、忠雄や原告加納敏雄から原決定と第一次事業認可とが異なっている旨の指摘を受けた昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地部分を残してほぼ完成した状態にあったこと、本件都市計画道路の一部は国道一八六号線となっており、右道路を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていること、関係地権者の同意を得て右道路を築造していること、本件都市計画道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可にかかる道路では、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道の拡幅により事業を実施することができること、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可にかかる道路の方がとれていること、原告加納基宏が本件変更決定の後に当初は本件事業の事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていたにもかかわらず、後日、建築基準法による設計変更届と法五三条による建築許可を受けて本件事業の事業地内に住居を建築したこと、被告広島県知事が本件変更決定に際し、被告ら主張の手続を経たことは認め、その余の事実は否認する。

(昭和六一年(行ウ)第六号事件原告ら)

2  同2(一)のうち、審理不十分の違法がないことは否認し、その余は認める。同2(二)の事実は否認する。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1及び2について

請求原因1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因3及び被告らの主張1について

1  請求原因3(一)(1)のうち、被告広島県知事が、南栄下白石線の東方部分の道路建設事業を行った際に、原決定の計画に違背する区域に道路を建設したこと、大竹市が原決定の計画とは異なることを知りながら、第一次事業認可の申請を行い、被告広島県知事が同申請を認可したこと、変更決定理由書添付図面が都市計画地方審議会に付議されるとともに、公衆の縦覧にも供されたが、右図面による原決定の道路は大竹中学校の校舎に接するように記載されていたこと、原決定によれば、原告らは生活基盤である土地を失うことはないが、本件変更決定によるとそれを失うことになること、同(一)(2)のうち、大竹市の建設した市道は、第一次事業認可の際には既に存在していたこと、同(二)(1)のうち、被告広島県知事は、本件変更決定に際して、都市計画法所定の手続を履践したこと、被告らの主張1のうち、被告広島県知事が忠雄や原告らから原決定と第一次事業認可とが異なっている旨の指摘を受けた昭和五〇年一月ころには、県施行区間を含め、本件都市計画道路は既に本件各土地部分を残してほぼ完成した状態にあったこと、右道路の一部は国道一八六号線となっており、右道路を前提とする社会経済活動が既に一〇年来営まれていること、右道路は関係地権者の同意を得たうえで築造されていること、右道路付近一帯は密集市街地であるが、第一次事業認可にかかる道路では、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された大竹区検察庁、大竹簡易裁判所及び広島法務局大竹出張所に沿った既設の市道の拡幅により事業を実施することができること、大竹中学校の校舎との距離も第一次事業認可にかかる道路の方が離れていること、原告加納基宏が本件変更決定の後に当初は本件事業地外に配置すべく建築基準法による建築確認を受けていたにもかかわらず、後日、建築基準法による設計変更届と法五三条による建築許可を受けて本件事業地内に住居を建築したこと、被告広島県知事が本件変更決定に際し、被告ら主張の手続を経たことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  被告らは、原告らが本件認可処分が違法であることの理由として主張する本件変更決定の違法は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行政事件訴訟法一〇条一項)にあたると主張するので、まずこの点について判断するに、原告らの主張の趣旨は、いわゆる既成の土地(本件各土地と関係ない事業施行地)に関する部分が違法であることを理由として本件変更決定の違法をいうものではなく、被告広島県知事が違法な既成事実を適法化する意図をもって本件各土地にかかる右決定を行ったとして、右決定全体についてその裁量権を濫用した違法等があることをいうものであるから、原告らの主張する本件変更決定の違法を、「自己の法律上の利益に関係のない違法」とみることはできないというべきである。

したがって、この点に関する被告らの主張は採り得ない。

3  原告らは、本件変更決定が都市計画法の解釈適用を誤って裁量権を逸脱濫用してなされたものであると主張する。

(一)  【要旨二】一般に、法二条の定める都市計画の基本理念、法一三条一項四号、二項の定める都市計画のよるべき基準に照らして考えると、法二一条により道路に関する都市計画を変更するか否かの判断は、土地利用、交通等の現状及び将来の見通し等を勘案して、健康で文化的な都市生活及び円滑で機能的な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するという見地から、元の都市計画による道路の規模や位置と、想定される変更案による道路の規模や位置とを比較し、いずれがより適当かという観点でなされるべきものである。

ただ、右の判断は、事柄の性質上極めて政策的、専門技術的なものであること、法文上も、法一三条一項四号、二号、二一条は概括的な表現をするに止まっていることからすると、都市計画を変更するか否かの判断は、第一次的には都道府県知事又は市町村の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。したがって、本件変更決定の適否の審査においても、前記考慮要素についてされた被告広島県知事の判断に社会通念上著しく不相当な点があり、その裁量権の逸脱濫用があったと認められる場合にのみ、本件変更決定は違法となるものである。

(二)  本件変更決定の経緯等

(1) 〔証拠略〕を総合すると、以下の各事実を認めることができる。

大竹市は、原決定後の昭和三七年、本件都市計画道路の周辺である大竹市大竹町大竹字下白石二五七〇番地に大竹中学校を建設した(大竹中学校の校舎は、原決定にかかる都市計画道路に沿って、しかも殆ど道路に接するように近接して建てられているが(最も近接しているところでは数十センチないしはせいぜい三メートルである。)、当時何故そのような建て方がなされたかは明らかではない。)。

また、その当時、大竹簡易裁判所が大竹市白石一丁目の国有地に建替えられ、翌年には大竹区検察庁が同地で建替えられる予定であり、更に広島法務局大竹出張所も同地への移転が計画されていた。従来、右国有地への出入りには、主としてその北側にあった私道が利用されていたが、右各庁舎への出入りが不便であったため、国は大竹市に対し、右国有地の西側及び南側の一部を提供するので新たに市道を整備してもらいたい旨要望していた。大竹市は、提供の申出があった右国有地の南側の土地(以下、「検察庁前の土地」という。)については、これに並行して本件都市計画道路としての道路予定地があるので、これと一部重複するが、右都市計画道路全体の整備がいつ実施されるか具体的に目処が立っていなかったので、とりあえず右検察庁前の土地を市道として整備することとし、将来の都市計画道路との整合については、右整備事業が具体的になった時点で考えることとして、昭和三七年六月、幅八メートル延長一八〇メートルの市道を路線認定した(以下、これを「検察庁前の市道」という。)。

昭和四〇年、大竹市は都市計画の県施行区間の道路の位置を記した図面(以下、「県施行区間図面」という。)を作成して広島県に渡したが、右図面上の県施行区間の道路の位置は、原決定による道路の位置と異なるものであった。広島県は、都市計画課において右図面を検討したが、同三二年の原決定後から同四〇年までの間に、本件都市計画道路周辺には、大竹中学校、大竹区検察庁、大竹簡易裁判所、広島法務局大竹出張所が新築または改築され、検察庁前の市道が整備されたのに、広島県保管の縮尺三〇〇〇分の一の計画図には、右建物や市道が記載されていなかったので、広島県は県施行区間図面が原決定における道路計画図とずれた内容であることに気付かぬまま、認可を受けるため県施行区間図面を建設大臣に提供した。建設大臣は、これを受けて、原決定に基づき、昭和四〇年七月一五日、本件都市計画道路の一部にあたる都市計画道路青木線との交点から都市計画道路中市立戸線との交点までの区間について、都市計画事業及びその執行年度割の決定を行い、広島県は右認可に基づいて、同四七年三月、その施行区間の道路を完成した(証人田中祐夫は、この点について、広島県は、県施行区間につき、原決定によるよりも幅五・五メートルの既存の道路を利用した方が補償費等の点で有利であるから、原決定と異なる内容の事業を施行したという趣旨の証言をするが、証人平上利之(第一回)、同有谷東南の各証言によれば、広島県は昭和五〇年一月までは原決定と事業の実施とがずれていることを知らなかったと認められるから、右証言は信用できない。)。

昭和四七年、大竹市は、市施行区間についての都市計画事業の認可を被告広島県知事に申請するにあたって、法六〇条三項及び都市計画法施行規則四七条の規程に基づいて「事業地を表示する図面」として、縮尺一万分の一の位置図と縮尺五〇〇分の一の実測平面図を添付した。

大竹市は、県施行区間の終点を市施行区間の起点として道路の線引を行ったが、その際、原決定の始点終点と実際の施行の始点終点とが完全に一致していなくとも、一部重なっている部分があれば、それは都市計画法上の都市計画変更手続を要しない軽易な変更(法二一条二項)にあたると考えていた。そこで、原決定の道路位置よりも認可申請図の道路位置の方が大竹中学校から離れて道路を造ることができるので教育環境上望ましく、また検察庁前の市道を利用してこれを拡幅するので合理的であるから、右のように道路を配置するのが適切であると判断して、原決定の道路と起点終点が一部重なるものの、途中の経路が異なる位置に道路を記した図面を作成した。広島県の担当者は、この認可申請を受けて、当該都市計画事業の内容が都市計画に適合しているかどうかについて位置、区域を昭和三二年三月に決定された都市計画の計画図と照合したものの、被告広島県知事保管の三〇〇〇分の一の計画図には、大竹中学校、大竹区検察庁、両者間の前記市道等が表示されていなかったこと及び大竹市の申請は原決定どおりになされているであろうと先入観をもっていたことから両図面上の差異に気付かなかった。そして、被告広島県知事は、右申請に従い、第一次事業認可をなした。

大竹市は、第一次事業認可の事業に着手し、右認可内容に従って工事を施行し、昭和五〇年三月、本件各土地の手前に至るまでの部分を完成させた。

ところで、忠雄及び原告加納敏雄は、昭和五〇年一月ころになって、本来ならば都市計画道路は本件各土地にはかからない筈であるのに、道路が本件各土地の方に向かって進められていることに気付いて調査した結果、第一次事業認可の事業地と原決定に定められた区域とが一部異なることを知った。そして大竹市や広島県並びに建設省にその旨の抗議をするとともに、右工事を中止するようにとの要請を繰り返し行った。

忠雄らの抗議に対して、当初はそのようなことは有り得ないと取り合わなかった広島県も、国からの指示により現地及び図面を調査した結果、原告らの申し出どおり第一次事業認可の事業地の一部が原決定に定められた区域と異なることを知った。そして、同時に県施行区間にも原決定と異なる部分があること、昭和三二年の原決定後、大竹中学校、大竹区検察庁、検察庁前の市道ができたこと、原決定による図面にはこれらが記載されていなかったこと、大竹中学校北東端交差点までの道路部分については既存の市道の拡幅により工事が実施されていること、本件各土地の前までほぼ工事が完成した状況であったこと、これらの道路の一部は既に一般住民の利用に供されていたこと、右のように道路位置を変更する場合、都市計画の変更が必要なことも順次判明した(広島県は、忠雄らの抗議の後も、大竹市の第一次事業認可に基づく工事を直ちに中止させず、その本件各土地の手前に至るまでの続行を、暫くの間放置していたのである。)。

なお、原告加納基宏は、昭和五一年八月に別紙物件目録七記載の建物(以下「本件土地」という。)を新築した。

大竹市は、第一次事業認可申請図どおりに道路を設定するのが望ましいが、第一次事業認可は原決定に違背しているので直ちには強制的手段を取ることができないこと、したがって道路用地の地権者の協力がなければ事業の早期完成は困難であることから、原告らの協力を得て円滑に事業を進めたいという配慮により、昭和五〇年四月ころから、広島県と協議の上、場合によっては築造済の道路を途中から湾曲させることによってなるべく本件各土地を避けて原決定上の道路予定地を通すことを考えるという含みを持って原告らと話し合ったが、結局合意には至らず、同年一二月二三日における最終の話し合いの後、第一次事業認可申請図どおりに道路を配置するという方針を固めた。

大竹市の右方針を受けて、広島県は、昭和五一年一月から建設省と協議し、第一次事業認可どおりに都市計画を変更した場合の法的問題点を検討した上、同年二月から具体的な変更案を作成する作業に入った。

そして、被告広島県知事は、右作業を踏まえて、県施行区間については、付近一帯が密集市街地であるとともに本件都市計画道路と並行して幅約五・五メートルの市道が通っていたため、右市道の拡幅により事業を実施した方が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するばかりでなく、用地補償費の軽減にもなること、市施行区間については、中市立戸線との交差点から大竹中学校の東北端交差点までの約六五メートルについては、県施行区間と同様幅約五・五メートルの右市道を有効に利用でき、また大竹中学校の東北端交差点から同西北端交差点までの約一四〇メートルについては、既に検察庁前の市道を整備しており、都市計画事業の認可のとおり、この道路の拡幅により事業を実施した方が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するばかりでなく、用地補償費の軽減にもなること、原決定によれば、昭和三七年に建設された大竹中学校の校舎にほぼ接して道路が築造されることになるところ、右の市道を利用することにより、道路を右校舎から約七メートル離すことができ、学校の教育環境上も適切であることを理由とする変更計画案を策定し、都市計画法所定の手続を経て本件変更決定を行った。

ただ、既設の道路を利用できるのは事実であるが、実際は、検察庁前の市道を利用したといっても、本来予定されていた幅一二メートルの都市計画道路の本体として利用したのはその一部で、他の部分は幅約四メートルもの歩道になるに過ぎない。用地補償費については、確かに県施行区間については二〇二一万四〇〇〇円の費用節約になるが、市施行区間については、原告らに支払うべき用地補償費を考慮するとかえって四七四万六〇〇〇円ほど高額になり、両方を総合すれば、一五四六万八〇〇〇円の費用節約にはなるというものであった。また、道路が大竹中学校の校舎から約七メートル離れることになるのはそのとおりであり、被告広島県知事や大竹市において道路が大竹中学校に近接して築造されたならばどのような教育環境への影響があるかについて特に検討を行ったわけではないものの、なるべく離したほうがよいであろうという考慮がなされたものである。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 【要旨一】前記(1)認定の事実によれば、大竹市は昭和四七年において、市施行区間に関して原決定の都市計画道路と異なる位置に道路を築造する方が妥当であると判断していたのであるから、この時点において、被告広島県知事等関係諸機関と協議して都市計画の変更手続をとるよう促すべきであった。しかるに、大竹市は、このような手続をとらずに原決定と異なる位置に道路を築造して都市計画事業の実施をしたのであるから、右事業の実施は原決定に反し、違法という外ない。同様にこれに先立ってなされた被告広島県知事による県施行区間の都市計画事業の実施も違法であるというべきである。

【要旨二】しかしながら、都市計画事業が違法に実施されたからといって、右実施の内容と一致させようとする都市計画の変更決定が直ちに違法となるものではなく、右変更決定も、前記考慮要素についてなされた決定権者の判断に社会通念上著しく不相当な点がなければ、裁量権の逸脱濫用はなく、適法と解するのが相当である。なぜならば、既に事実上実施された事業が合理的であっても、事業開始前に適法な都市計画の変更決定を怠っていたという一事をもって、右事業と同内容の都市計画の変更決定をすることが許されないとすれば、結局のところ、適当な規模、位置の道路を配置するという法一三条一項四号の理念を実現することに重大な支障をもたらすこととなるからである。

そこで右の見地から右変更決定の根拠についてみるに、被告広島県知事は、その根拠として、〈1〉誤って本件都市計画道路を築造したものの、その築造については関係地権者の同意を得ていて、その存在を前提として一〇数年来にわたって築かれてきた権利、利用関係を覆すのは、原告らの事情を勘案しても相当でないこと、〈2〉県施行区間、市施行区間共に、既設の幅約五・五メートルの市道や原決定以後に整備された「検察庁前の市道」を拡幅し利用することにより事業を実施することができ、この方が原決定にかかる道路よりも周辺の土地の適正かつ合理的な利用に寄与し得るものであること、〈3〉用地補償費も県施行区間、市施行区間共に軽減されること、〈4〉大竹中学校校舎との距離も七メートル離すことができるため教育環境上望ましいこと、の四点を挙げる。

(3) まず、〈1〉については、原告加納敏雄本人尋問及び弁論の全趣旨によれば、本件変更当時、原告らの他には本件都市計画道路の築造に特段反対する者はなかったこと、完成した道路部分はその後利用に供されていることがそれぞれ認められる。したがって、既存の事実状態の尊重ということは一応変更理由としては是認し得るものである。

次に、〈2〉については、前記認定事実によれば、「検察庁前の市道」のうち本件都市計画道路の本体に利用した部分は一部に過ぎないし(この他、証人吉田弘は、原決定と本件都市計画道路の法線とを比較してどちらが相当かを検討するに当たって、不整形な土地がどのように発生するかの点をも考慮したというが、一般には不整形な土地の発生如何よりもまず法線をどのようにするかが決定されるものであるとも証言する。)、東栄中市線とは直角に交わらなくなってしまったという事情もある。とはいえ、既存の道路を一部とはいえ利用できるとすれば次の〈3〉(用地補償費)に関係するので、変更理由として全く是認できなくもない。

〈3〉については、前記(1)認定のとおり、市施行区間の用地補償費はかえって本件変更により増加するし、県施行区間をも考慮しても、全体の用地補償費等からみれば、費用の節約は微々たるものと言えなくもないが、それでも一応変更理由として是認できなくもない。

〈4〉の大竹中学校の教育環境の点は、校舎が前記のように建てられた以上は(その建て方に問題があるとはいえ)、道路を校舎から離す方が望ましく、そのためには原決定の案より本件都市計画道路の法線の方が望ましいとはいえるであろう。

(4) さらに、原告らは、本件変更決定は、原決定を信頼した原告らに多大な不利益を課すものであるから、右事情は被告広島県知事の有する裁量の範囲に制約を加えるものである旨の主張をするが、法二一条は、社会的、経済的条件の変化等により、いったん定められた都市計画もこれに応じて変更する必要があることを前提にしており、特段の事情のない限り、私人は都市計画が変更されないことについて法的に保護されるべき期待を有しないというべきではあるところ、前記認定の経緯で原決定違背の事実が明るみに出たものの、本件でも原決定後の諸事情の変化によっては変更されることがないわけでもないから、もともと原決定のとおりの道路を築造することが最終的に確定したわけではなかったものである。

(三)  以上のとおりであって、本件変更決定に際しての被告広島県知事の判断には疑問点もなくはないが、合理的といえる部分もあるから、本件変更決定が社会通念上著しく不相当であるとはいえず、したがって裁量権を逸脱濫用したものということはできない。

4  次に、本件変更決定の手続に違法があったか否かについて判断する。

(一)  【要旨三】都市計画地方審議会は、都市計画の策定ないし変更に際し、適正手続の保障の見地から設けられた法定の機関であり(法一八条一項、二一条)、単なる諮問機関にとどまらず、都道府県知事は、右審議会による承認の答申を得なければ、都市計画を決定し又は変更することができない。また、右審議会では、利害関係人等から提出された意見書の要旨を勘案して審議がなされるのであるから(法一七条二項、一八条二項、二一条二項)、右審議会は、利害関係人等の権利・利益の保護をも目的とする重要な機関であるというべきである。そうすると、審議会の議を経ていても、右審議会に当然提出されるべき重要な資料が提出されず、また、重要な事実につき誤った前提の下に審議がなされるなど審議が尽くされていない場合には、当該都市計画の決定又は変更には法一八条二項又は二一条二項の規定に違背する違法が存するものと解すべきである。

(二)  そこで、右審議会での審理手続について検討する。

被告広島県知事が本件変更決定に際し、都市計画法所定の手続を履践したこと、その過程で、忠雄は被告広島県知事宛に本件変更決定に対して反対する趣旨の意見書を提出したこと、昭和五一年三月二三日開催の第五五回広島県都市計画地方審議会においては、審議員に右意見書の要旨が配付され、広島県都市計画課長が被告広島県知事の主張するような前記3(二)(3)の〈1〉ないし〈4〉の理由を説明し、本件変更決定をすることが適当であるとの答申が出されたことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば本件変更決定がなされ、原告らが任意買収に応じなければ、結局原告らの土地建物が収用されることは忠雄の提出した前記意見書の第4、第6、第7項から読み取ることができること、前記審議員に配付された意見書の要旨中には単に被告広島県知事の主張するような理由が失当である旨の忠雄の主張だけが記載され、右の収用問題は削られていたこと、右審議会において、審議員の一人が、広島県の都市計画課長に対して、本件変更決定をするならば周囲の土地所有者に迷惑が掛かるのではないかと質問したところ、同課長は、右意見書の中にはそのような記載はないとか、私権制限の問題は一切生じないなどと答弁したこと、右答弁の結果、右の問題についてはそれ以上議論されなかったことがそれぞれ認められる。

なお、原告らは、広島県や大竹市がことさらに偽造図面を用いて公衆等を欺いた旨主張するけれども、そのような事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(三)  【要旨三】右認定の事実の他、前記3で認定の本件変更決定に至る経緯を併せ考えると、右審議会においても、原告らの土地建物の収用問題について当然言及があってしかるべきであり、また、同課長が右問題を知らなかったとは思われないから、同人は右の点について議論を避けるような著しく誠実さを欠く答弁をなしたと見るほかない。この他、前記3で認定のとおり、変更の根拠の合理性には多々疑問がある(特に、市施行区間の用地補償費の軽減の点は明らかな誤りである。)にもかかわらず、変更が適当であることについて概括的な説明しかなされていないことも考えると、右審議会の審議手続において審理不尽等の違法があると言わざるを得ない。また、右審議会において、仮に同課長が原告らの土地建物の収用の件等や本件変更決定に至る経緯につき誠実に答弁していたならばその結論がどうなったかは定かでないと考えられるから、右審理不尽は取消事由を構成すると解すべきである。

三  請求原因4について

右二認定のとおり、本件変更決定は違法であるから、本件認可決定もその違法を承継するというべきである。しかし、右の違法が重大かつ明白なものとまでは認められない。

四  請求原因5について

請求原因5の事実は、昭和六一年(行ウ)第六号事件の当事者間に争いがない。

五  請求原因6について

【要旨四】同6(一)について判断するに、本件認可処分が違法であることは既に述べたとおりであり、その適法であることを前提とする本件裁決は、同様に右違法を承継するというべきである。

六  結論

以上のとおり、本件変更決定及びそれに引き続く収用裁決は、その余の点について判断するまでもなく、違法であると言わざるを得ない。

ただ、〔証拠略〕によれば、【要旨五】原告加納敏雄は、昭和六〇年九月二〇日、前記都市計画法違反の点について議会に陳情をなしたところ、同六一年九月一八日不採択となり、他方、昭和六一年九月一〇日には、白石地区の住民が、大竹市長に対し、多数の署名を集めて同地区における都市計画道路の早期完成を陳情していることが認められ、また、本件都市計画道路の周囲が密集市街地であることは前記のとおりである。してみると、本件都市計画道路は大竹市等の杜撰な都市計画の下に造られたものではあるが、公益性が高いものであり、また、前記審議会の議を経てから既に十数年が経過し、いまさら路線を変更するのではかえって密集市街地である本件都市計画道路の周囲の土地建物の所有者に対する影響が大であり、また、右道路を前提とする社会経済活動は二〇年来に及ぶことを斟酌すれば、本件変更決定及び本件裁決を取り消すときは、これにより公の利益に著しい障害を生ずるものと認められる。さらに、原告らが土地建物の収用によって被る損害は、適正な補償を受けることにより回復することができる。よって、行政事件訴訟法三一条を適用して、本訴請求をいずれも棄却するとともに、本件変更決定及び本件裁決がいずれも違法であることを宣言することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但し書、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅田登美子 裁判官 古賀輝郎 福田修久)

(別紙)

物件目録

一 所在 大竹市白石一丁目

地番 二五九一番七

地目 宅地

地積 二一九・六五平方メートル

二 所在 同所

地番 二五九一番一二

地目 宅地

地積 一一〇・六九平方メートル

三 所在 同所

地番 二五九一番一九

地目 宅地

地積 一〇五・八一平方メートル

四 所在 同所

地番 二五九一番二〇

地目 宅地

地積 一五七・一六平方メートル

五 所在 同所

地番 二五九一番二一

地目 宅地

地積 一二九・三〇平方メートル

六 所在 大竹市白石一丁目二五九一番地

家屋番号 一二一〇番の四

種類 工場(現況 倉庫)

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建(現況 木造波型亜鉛鉄板板葺平家建)

床面積 四一六・九二平方メートル(現況 一七八・四五平方メートル)

七 所在 大竹市白石一丁目二五九一番地一二、同所二五九一番地七(現況 大竹市白石一丁目二五九一番地一二、同所二五九一番地二一、同所二五九一番地七、同所二五九一番地二〇)

家屋番号 二五九一番一二

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 一〇一・九八平方メートル

二階 三一・五八平方メートル

参照条文

◆都市計画法施行規則(昭和四四年八月二五日建設省令第四九号)

(都市計画の軽易な変更)

第十三条 令第十五条第二号の建設省令で定めるものは、次の各号に掲げる都市計画について、それぞれ当該各号に掲げるものとする。

一 市街化区域及び市街化調整区域に関する都市計画市街化区域と市街化調整区域との区分のための土地の境界とされている鉄道その他の施設又は河川、がけその他の地形若しくは地物の位置の変更(水面の埋立てによる湖岸又は海岸の位置の変更を除く。)に伴う区域の変更で当該変更に係る部分の面積の合計が二ヘクタール未満であるもの

二 地域地区(法第八条第一項第十号及び第十一号に掲げる地域地区並びに同項第十二号に掲げる地域地区のうち首都圏近郊緑地保全法(昭和四十一年法律第百一号)第四条第二項第三号の近郊緑地特別保全地区及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律(昭和四十二年法律第百三号)第六条第二項の近郊緑地特別保全地区を除く。)に関する都市計画

イ 区域の境界とされている道路、鉄道、自動車ターミナル、空港、公園、緑地、墓園、下水道、河川若しくは運河の位置の変更で、それぞれ、次号から第九号までに掲げる区域の変更に相当するもの又はがけその他の地形若しくは地物の位置の変更(水面の埋立てによる湖岸又は海岸の位置の変更を除く。)に伴う位置、区域又は面積の変更

ロ 法第八条第一項第一号に掲げる地域の位置、区域又は面積の変更で、市街化区域と市街化調整区域との区分の変更に伴い市街化区域から除外される土地の区域を当該地域の区域から除外したにとどまると認められるもの

三 道路に関する都市計画

イ 起点又は終点の変更を伴わない線形の変更による位置又は区域の変更で、中心線の振れが百メートル未満であり、かつ、当該変更に係る区間の延長が千メートル未満であるもの(当該区間内に交通広場又は他の道路若しくは鉄道と立体で交差する箇所を含むものを除く。)

ロ 拡幅による位置又は区域の変更で、当該変更に係る区間の延長が千メートル未満であるもの(当該区間内に交通広場又は他の道路若しくは鉄道と立体で交差する箇所を含むものを除く。)

ハ イ又はロに掲げる変更に伴う他の道路の起点又は終点の変更(起点又は終点の移動する距離が百メートル以上であるものを除く。)による当該他の道路の位置又は区域の変更

ニ 起点若しくは終点、線形又は幅員の変更を伴わない位置又は区域の変更

四 都市高速鉄道に関する都市計画

イ 起点又は終点の変更を伴わない線形の変更による位置又は区域の変更で、中心線の振れが五十メートル未満であり、かつ、当該変更に係る区間の延長が五百メートル未満であるもの(当該区間内に停車場又は車庫を含むものを除く。)

ロ 停車場又は車庫の区域以外の区域における拡幅による位置又は区域の変更で、当該変更に係る区間の延長が五百メートル未満であるもの

ハ 停車場又は車庫の位置又は区域の変更で、区域の境界の移動する距離が二十メートル未満であるもの

五 自動車ターミナルに関する都市計画 位置、区域又は面積の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が二千平方メートル未満であり、かつ、変更前の面積の二十パーセント未満であるもの

六 空港に関する都市計画 位置、区域又は面積の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が四千平方メートル未満であり、かつ、変更前の面積の二十パーセント未満であるもの

七 公園、緑地及び墓園に関する都市計画 次に掲げる位置、区域又は面積の変更。ただし、公園及び緑地に関する都市計画にあつては、その区域の全部が幅員十二メートル以上の道路を越えて移動することとなるもの、鉄道、道路又は河川が区域を分断することとなるもの及び既存の主要な公園施設である樹林、池等を失うこととなるものを除く。

イ 面積の変更を伴わない位置又は区域の変更で、区域の境界の移動する距離が五十メートル未満であるもの

ロ 面積の拡張又はこれに伴う位置若しくは区域の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が変更前の面積の二十パーセント未満であるもの

ハ 区域の境界の整正をするために行う位置、区域又は面積の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が千平方メートル未満であり、かつ、変更前の面積の五パーセント未満であるもの

八 下水道に関する都市計画

イ 道路の区域内の下水管渠(きよ)の位置又は区域の変更

ロ 処理施設又はポンプ施設の位置又は区域の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が二千平方メートル未満であり、かつ、変更前の面積の二十パーセント未満であるもの

九 河川に関する都市計画

イ 起点又は終点の変更を伴わない線形の変更による位置又は区域の変更で、区域の境界の移動する距離が五十メートル未満であり、かつ、当該変更に係る区間の延長が五百メートル未満であるもの

ロ 拡幅による位置又は区域の変更で、当該変更に係る区間の延長が五百メートル未満であるもの

十 一団地の住宅施設に関する都市計画

イ 位置、区域又は面積の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が二ヘクタール未満であり、かつ、変更前の面積の五パーセント未満であるもの

ロ 住宅の低層、中層又は高層別の予定戸数の変更で、当該変更による予定戸数の合計(以下「総予定戸数」という。)の変更が五十戸未満であるもの(変更後の低層の住宅の予定戸数の総予定戸数に占める割合が変更前の割合を超えるものを除く。)

ハ 公共施設、公益的施設又は住宅の配置の方針の変更で、公共施設又は公益的施設の規模の変更を伴わないもの

十一 一団地の官公庁施設に関する都市計画

イ 位置、区域又は面積の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が二ヘクタール未満であり、かつ、変更前の面積の五パーセント未満であるもの

ロ 公共施設、公益的施設又は建築物の配置の方針の変更で、公共施設又は公益的施設の規模の変更を伴わないもの

十二 流通業務団地に関する都市計画 位置又は区域の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が二ヘクタール未満であり、かつ、変更前の面積の五パーセント未満であるもの

十三 市街地開発事業に関する都市計画 施行区域又は面積の変更で、当該変更に係る部分の面積の合計が二ヘクタール未満であり、かつ、変更前の面積の五パーセント未満であるもの

◆都市計画地方審議会の組織及び運営の基準を定める政令(昭和四四年二月六日政令第一一号)

(趣旨)

第一条 都市計画地方審議会(以下「審議会」という。)の組織及び運営の基準に関しては、この政令の定めるところによる。

(組織)

第二条 審議会を組織する委員は、学識経験のある者、関係行政機関の職員、市町村(都の特別区を含む。以下この項において同じ。)の長を代表する者、都道府県の議会の議員及び市町村の議会の議長を代表する者につき、都道府県知事が任命するものとする。

2 前項の規定により任命する委員の数は、十五人以上三十五人以内とするものとする。

3 審議会に、特別の事項を調査審議させるため必要があるときは、臨時委員若干人を置くことができるものとする。

4 審議会に、専門の事項を調査させるため必要があるときは、専門委員若干人を置くことができるものとする。

5 臨時委員及び専門委員は、都道府県知事が任命するものとする。

(議事)

第四条 審議会は、委員及び議事に関係のある臨時委員の二分の一以上が出席しなければ会議を開くことができないものとする。

2 審議会の議事は、出席した委員及び議事に関係のある臨時委員の過半数をもつて決し、可否同数のときは、会長の決するところによるものとする。

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